2012-05

四月読書

 一日一冊読めたー! って読む予定にしていたカントも読まずラノベで数ばかり稼いだ月になった。
 漱石全作読むのを始めたりして四月は『吾輩は猫である』から『虞美人草』まで。デビュー~朝日新聞入社まで。初期と言える作品を追ってきて、本当は『坑夫』まで消化する予定だったけどこれは今月読んでいきます。初読は『二百十日』『野分』『草枕』の三作。『草枕』が特に素晴らしかった。難解な文体だったり、写生文を突き詰め「天地開闢以来、類のないものです」と漱石自身にに言わしめるに至ったとかいう逸話があったりで、読む前のハードルの上がり方が物凄かったのだけれど(そしてそのせいで以前漱石の作品を読みあさった時には敬遠してしまったのだけど)、いざ読んでみれば漱石の中でも一番好きかもしれない、と思いました。どこから汲まれてきてどう流れた水脈なのかはわからないけれど、少年漫画も少女漫画もここから影響されたものが少なくないと思ったし、あるいは日本的な感性とかいうものの高貴な部分から俗な部分まで平気な顔してカバーしているのかもしれないとも思った。それぐらい深い水脈を持っている作品なんだろうなあと。そのせいかはわかりませんが、文体の難解さの割に口当たりは非常にマイルドでわかり易かった。那美の人物造形は現代でも全然通用する、一つの理想像かもしれない。わけのわからない女だけど、そのわけのわからなさが説明をすり抜けるところで魅力を感じさせる。「そんなに可愛いなら、仏様の前で、一緒に寝よう」「死んで御出」は名台詞。「驚いた、驚いた、驚いたでしょう」、このシーンで完全に惚れてしまったのは私だけではないと信じたい。こう書くとひたすら那美に萌えただけのようだけど、ぶっちゃけそう。でも「唯一種の感じ美しい感じが読者の頭に残ればよい」と漱石先生自身がおっしゃっているのだから、この読みでも全然正しいのだろうなと思います。
 以降設定された主題との格闘が本格的に始まる漱石作品、まず最初にはっきりと提示されたのは『二百十日』『野分』で、私の読んだ新潮文庫ではカップリングで収録されていますが、やはりどちらにも「美しい感じが読者の頭に残ればよい」という割り切りで書いたであろうシーンが幾つもあって、それが一番心に残ります。漱石は萌えの作家なのだなあ。『野分』は先生の演説シーンが劇的で、作中人物でしかない先生に本気で憧れてしまう辺り、これは先生萌えの元祖の一つ……だったりしないかなあと思いました。そうであって欲しい。
 車谷長吉は震えるほどに凄かった。私のフラグメントの再構成ということについて筒井康隆が言及していましたが、この部分に徹底した容赦がないのが特徴で、私の周囲の巻き込み方が数ある私小説とは全然違う。それだけに怖くもある。何もかもが徹底しているから、ナルシシズムに耽溺するなんてこともあり得ない(比較してしまうと西村賢太辺りの私小説はやっぱりナルシシズム込みの作品に見える)。こうなると反論も不可能になるから容赦がないのです。とにかく口を封じる以外に対抗手段がなくなる。この人の「私」を中心にあらゆる社会的関係が解体されると言えばいいのか、とにかくそういう危険な意味性を帯びてくる。別に見てはいけないものを見たい好奇心を満たすわけではないのに、見てはいけないものを見たという感覚だけは強烈に残る。凄いし、怖いし、とんでもないと思いました。これから作品を追いたい。
 竹宮ゆゆこ強化月間。『わたしたちの田村くん』『とらドラ!』全巻読破。正直『わたしたちの田村くん』は最初から凄いのかと思って読んだから期待はずれという感じが強かった。多分、エロゲとかその辺の文法にかなり依存しているし、要素が取っ散らかっていて今ひとつ統合が弱い。悪く言えば勢いで書いたようにしか見えない。書きたいシーンでの力の入り具合は素晴らしいのだけど、そこに至るまでとの接続が上手くいっていない感じ。習作だなあと思って読んだ。ところが『とらドラ!』は最初から凄い。一巻から戦略がはっきりしていてべらぼうに上手い。四巻辺りからキャラクターに陰影を与える手法が目立って五巻で一気に前景化、六巻七巻とダークサイドで関係をぐちゃぐちゃに壊して八巻九巻で大修羅場大会、そして家族の問題にまで踏み込んで大団円と至る十巻。完璧過ぎます。特に十巻での問題提起はフィクション全般を見渡してもかなり珍しいものなんじゃ……と思いました。こういう形の復讐を真正面から描いたのはなかなか見ないと思います。アニメではあまり主題化されていなかったけれど、あるとないとでは全然印象が違う。正直ラノベ→一般文芸のルートを辿るタイプの人ではないと思うけれど、こっちの方面を突き詰めて一般文芸化した小説を読んでみたいとも思いました。純粋な完成度ではあーみんとみのりんをちゃんと救ってから重要な伏線もきっちり回収しきった(小説はミスしたのかなってぐらい不自然に放置されてる伏線がある)アニメの方が高いのかもしれないけれど、収まりきらずにはみ出た部分に凄みがあったりするから小説(に限らず創作全般)は面白い。
 で、今月のベスト。『草枕』以外にないけれど、『不思議の国のアリス』が次点ぐらいに入りました。再読だけど、初読の『鏡の国』と併せて読んで、やっぱりこっちだなあと。バラバラ感覚が凄い。『鏡の国』もまとめに入っているのはチェスのルールだけだからやっぱり凄いんだけど、起伏一切なしでしかも登場人物の会話も脈絡一切なし。それでいてちゃんと耳に残る一節が沢山ある。『草枕』はただただ憧れるだけだけど『不思議の国』はこういうの書きたいなあと強く思える小説でした。四月はこれで終わり。楽しかった。五月は多分読むペース、一気に落ちるんじゃないかなあ。まあこつこつ読んでいきます。

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3月分読書

『純粋理性批判』は再読だけど面白い。楽しんで読んだのは初めてで、これって楽しめるんだ……ということが意外な驚きでした。結局どんなものでも楽しもうと思えば楽しめるのかもしれない。
 まだ完読していないから、『純粋理性批判』という書物に関しては判断する立場にはないけれど(以前だと『わからないことはないけど、退屈』であって、これは読めていないから判断以前の問題)、一冊という単位で選ぶなら、3月のベストは『純粋理性批判』の中巻です。あるいは『文学とは何か』も面白かったし、『相対主義の極北』も哲学的な思考様式に対する慣れを養ってくれる(ひょっとしたらここでこれを読んだからカントを楽しむことができたのかもしれない)良い本でした。新書の解説書なんかを読むよりよっぽどトレーニングになる。
 小説は傑作しか読んでいないから甲乙付けがたいけれど、『蹴りたい田中』がベスト。小説部分の異様な完成度の高さ(そこら辺のエンタメ作家よりよっぽど太い骨格がある)が結局ダジャレの為に用意されているという無駄遣い精神が良い。躊躇いはフィクションにおいては何の価値も持たない。そこまでやっていいの? っていうところに踏み込んでみないと面白くはなりません(でもそういうことばかりやると雑誌から原稿依頼が来なくなるらしく、作家っていうのは本当に大変だ)。『BRAIN VALLEY』は堅実なエンターテイメントなんだけど前半のやり過ぎが後半の自重でかき消されてしまったから残念だった。勿論エンターテイメントとしてきれいにまとまってはいるけれども、あれほどの闇鍋状態を解決する方法が「劇場版ドラえもん」ではいけないと思う。面白さのすり替えのような気がするのです。百ページにも渡るクライマックスが凄かっただけに、拍子抜けしてしまった惜しい作品でした。
 メタフィクションはさらなる「メタ」の領域を想定する――メタフィクションというジャンルが「フィクションに対して自己言及的なフィクション」と定義されている以上、それは必然的に起こります。フィクションをある種のリアルとして読むことを強いられているのは、そこに「リアルである」ことを成立させている仕掛けがあるから。ところが「何をリアルとして成立させているのか」ということを問いだすと、そもそも人間は「リアルとは何なのか」も知りはしないということがわかってきて、「現実もフィクションの一形態」じゃないかという疑いが生まれてくる。実際メタフィクションを政治的に利用する手法は、こういった性質に依拠しているのですが、にもかかわらずこれまでのメタフィクションがこのことにどれほど無関心だったことか。告発止まりで満足し、その背進については殆ど言及がなされないのです。舞城王太郎『九十九十九』はそこに真っ向からぶつかっていった傑作でした。結局背進は止められないけれど、そこにはっきりと結ばれる関係に対して態度を決めることが重要だ、という作品だと私は読みましたが、ここには舞城という作家が持っている「愛」に対する単純な(だけど単純化は決してできない)信仰が根ざしているような気がします。まあ、作家の信仰を持ち出す評ほど意味のないものはないのだけど。
 今月は『純粋理性批判』を読み終えて後『実践理性批判』『判断力批判』と三大批判書を崩していく。本当はショーペンハウアー全集再読の準備なんだけど、そこまでは行かないかも。

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t.A.T.u. / Happy Smiles

 どう聴いてもt.A.T.u.最高傑作です。でもこのラストアルバムが一番入手困難という。一発屋はつらいね、とかいってる場合じゃないから早く流通させて欲しい。音楽チームとしてt.A.T.u.にあたった光があの一発の時だけだったなんて、切なすぎる。


Весёлые улыбки / Happy Smiles [Import]Весёлые улыбки / Happy Smiles [Import]
(2008/10/17)
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2月分の読書

 読書メーターにはこういう機能があるから嬉しい。どうも、ブクログと読書メーターってそれぞれ機能が相補的っていうのか、あっちで欲しい機能がこっちではなくて、こっちに欲しい機能はあっちになくて、みたいなことが多いけど、住み分けがちゃんとなされてるって感じなんでしょうかね。公開メモには読書メーター、個人メモにはブクログって感じもします。
 9冊。一月で、9冊。20冊ぐらい読むつもりだったけどバタバタしてたらこんなことに。今月はせめて二桁行きたい。せめて。
 ベストは『カスタム・チャイルド』か『宇宙の眼』ってところになるかなあ。どっちもエンターテイメントの大傑作です。ああ、あと『ためらい』はメチャクチャ良かった。トゥーサンは多分恒常的に読んでたら全然印象に残んなかったりするけどふっと入り込むことができたらもうどっぷり浸かっちゃうようなそういう作家なんだろうなあ、と思う。全体の印象は全然残ってないのに細部だけやたらはっきり覚えてたりしてそういう時間を作ってくれる小説なんじゃないだろうか云々。
『宇宙の眼』が絶版というのは聞いて呆れる。信じられない。多元宇宙というジャンルそのものの衰退だとしてもこれは残すべき名作だろう、という感じ。イメージの、SFでしかありえない起爆力を、こんなにパワフルに見せてくれる小説他にありますか。筒井康隆の多くの作品、それこそ最初期の名作「二元論の家」だってこれがなければできなかっただろうと思います。『脱走と追跡のサンバ』も。絶対読まれるべき名作です。復刻すべきです。
 来月はちょっと思想系増える予定。お勉強その他で読みかじってきたのも入れるべきかどうかって感じで、入れたら結構分量増になるから他があまりにも貧相だったら入れます。

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BURDEL KING / ¡LADRAN, LUEGO CABALGAMOS!

 MAGO DE OZヴォーカル脱退、の記事を書いた時に、GAIA完結後不穏な空気があった、と書きましたが、それはこのアルバムのことです。MAGO DE OZのドラムであり、またバンドリーダーを務めるTxus di Felattio(なんちゅう名前だ)がヴォーカルとして新たに立ち上げたバンド、BURDEL KINGのファーストアルバム。パーマネントな活動のために組まれたバンドなのか、単発性のソロプロジェクトなのか、その辺はよくわかりませんが、問題はそこで聴ける音。


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(2011/10/04)
Burdel King

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Author:仁井田
 小説を書いたりしています。ここは読み書きと音楽の趣味の記録。

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